アーマーリングを左手に。
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ちゃ〜らら〜ちゃらららちゃらららちゃららっらっら〜♪
「おぉっ!!!??」
軽快なリズムが携帯から鳴り響く。画面には「あずみ」の文字。
[今、ダーツの前♪今日、暇??遊ぼうよ!!]
ダーツとは、あたしたちの行きつけのゴスロリパンクなお店。
あずみとはあたしの唯一のの人間。そして、親友でゴスロリ仲間。
あたしはものの数秒ほどで返事を打った。
[あたしも今日、ダーツに行こうとしてた。今から会う?]
そして送信。返事は一分もせずに帰ってきた。
[うん♪待ってるね!]
そして、30分ほどしてあたしはの公園の前にいた。
「姫―!ひーめー!!!」
「あずみ。」
あたしは聴いていたMDを止め、声のした方へとふりむく。
振り向いた先には小さな薔薇の模様の春らしいピンクのワンピースをヒラヒラさせて駆けてくるあずみの姿。相変わらずのロリータファッション。パフスリーブの袖。ボブカットの頭には同じくピンクのリボンがあしらってあるヘッドドレス。
「姫!ひさしぶりだねー。げんきしてた?」
「あずみもあいかわらず。」
・・・この子とはとても奇妙な出会いかただった。
その日もダーツに買い物をしにいった(まつり先生に依頼料をもらったのだ。)
ツーピースのドレスを買い、ほくほく顔で裏と表が交差しだす裏通りであたしはあずみに会った。あずみが裏の連中だろう若い男たち(三人組)に・・ぶっちゃけからまれていたのだ。そんな光景を目の前にして気分を害されたあたしはそのままの勢いで男たちを蹴り飛ばし、殴り倒し・・・そして逃げたと思っていた女の子(もちろん、あずみだ。)は目を輝かせ、こう言った。
「かっこいい〜♥♥」 ・・・・・あずみはかなりの大物だと心底思えてしかたがない。
・・・そのあと、ゴスロリについて意気投合したあたしたちは友達になった。表の友達と呼べる人間。初めての・・・親友になった。
その時、名前を聞かれたあたしはとっさに「姫」と名乗り、それ以来あずみの中であたしは「姫」になった。
「姫?どうしたの?先、行っちゃうよ〜。」
「今行く。」
そうして、あたしたちはいつもの買い物コースへと向かった。
まずはダーツへ。入ってすぐのところに本日の獲物が・・・白のブーツ。
丸みを帯びた靴先、足の甲の共布でできたベルト、細かい編み上げになった靴紐。
しかも、値段も見てみればリーズナブル!これは買いだ!(直感)
そんなこんなで何軒も店を回り、気がつけばもう8時をまわっていた。
「そろそろ帰ろうか。門限近いよ、あずみ。」
あずみはもう二〇才を超えるというのに門限があるのだ。・・・しかも9時。
「そうだね。今から帰ってちょうどかな?」
「ちゃんと急行乗って帰りなよ?」
「わかってるよぅ。じゃあ、またあとでメールするね!」
紙袋をがさがさ言わせて、あずみは帰っていった。
明るい街灯のある道へ。・・・あたしはそれが嬉しい。

部屋に帰るとマイパソコンに・・・「受信メールあり」の文字。
「まつり先生からだ。」
あけてみると添付資料のみ。本文にはなにもかかれていない。
件名は「アナタの思い出」
・・・・・?
まつり先生はたまにこういうメールを送ってくる。
つまり、聞きに来い。とゆーこと。
部屋に荷物(戦利品)を置くと、あたしはまず十夜の元へと走った・・・
いや、歩いていったんだけどね。
「サーティーン!!来てくれたの?嬉しいわ。」
「どーもデス。」
この十夜の喜びようは・・・不気味だ。
「どうしたの?オートの方が切れた?」
「最近は使わないんで、いつものだけ。」
それを聞いて十夜は部屋の中にひっこんだ。すぐ顔を出し、
「ハイ、これいつものやつね。おまけしといたからね♥・・・いろいろ。
紙袋の・・・この重量はなんだろう・・・(恐怖)
これで準備万端。
十夜が言うにはまつり先生はいまは夕ご飯中。
つまり、食堂にいる。

まつり先生はすぐに見つかった。
先生は、食堂の端っこでオムライスをつついていた。
                      
食堂の端っこにいた先生を捕まえて、とりあえず一緒に夕飯でもと席に着いたあと、
声をかけ、あたしは隣に座らせてもらい、話を切り出した。
まつり先生がすこし声をひそめる。
「その場所はね・・・・秘密結社。」
[秘密結社ぁ??」
「そ、秘密結社。」
うっっっさんくさ〜。
そう思いつつ、うどんをすすった。やっぱり、天かすは多めだな。
「ドラマとか映画とかサバトとかの?」
「サバトは違うけど、そうよ。」
まつり先生はあっさりとうなづいた。
「でも、あんな映画みたいな大規模な団体がほんとにあったら、とっくに警察にばれてるデショ。」
「でも・・」
・・・?
「本物がなければ偽者は作れない。」
なんだか、きつねにでもつままれた気分だ。

カランカラン・・
《ムーンピアス》と書かれた看板をくぐり中に入る。入ったとたんにそこは別世界。
クラシックが流れ、フルーティーな香りがアルコールと共に鼻をくすぐる。
店のイメージは「和風。」カウンターの奥には畳のしいたお座敷まである。
ときにはもちろん飲みに来たりもするのだが今日は人に会いに来たのだ。
カウンターでカクテルを作っている女性。まさに「大人の女性」だ。
着物を着崩して豊満な胸の谷間を惜しげもなくさらしている。
・・・・・そして彼女は、情報屋だ。

「ライラ計画?」
ライラ・・・夜。または夜の化身。夜の女神の意。
「そ。」
「その秘密結社とやらで?どういう計画なの?」
そこでオネーサンはピンクから黄色へのグラデーションのカクテルを一口あおった。
「なんでも、夜・・ライラを手に入れるとかなんとか。」
・・・手に入れる?夜を?
「この場所。」
あたしは 手持ちのノートパソコンを開いて、まつり先生からのメール・・添付の資料をつきつけた。
「なにがあるの?知ってるでしょ。」
「・・・研究所よ。たぶん、ライラ計画の。」

「がっっ!?」
一人の男の声が長く続く廊下に消えた・・・。
あたしは研究所の中にいた。
資料の場所。あの秘密結社?とやらの研究所に。
まつり先生の資料には研究所までの地図しかなく、中の情報も一切なし。
いつもならもう少し慎重に情報を集めてから乗り込んだんだろうが。
・・・胸騒ぎがしたのだ。
今日、この場所へ来るようにと・・・誰かが、ささやいたように。
いくつもの部屋と廊下を抜け、メインのフロアへと向かう。
おかしい。>BR> 人があまりにも少なすぎる。この研究所へ向かう道にすらほとんど警備の者がいなかった。ここは研究所だというのに・・・。
バンッ!!
扉は鍵すらかかっていなく、すんなり開いた。
研究所だというのにその場所には実験器具一つなく、広く明るい場所で・・・誰か、いた。
シルバーの足首まで届くほどの髪。右目が赤、左目が紫のオッドアイ。
・・・到底、この世に存在しえない少女。十三夜月。
そして、後ろには双子の人形。いや、ややあたしより年下の少女たち。
桃色の少女と水色の少女、その双子は奇跡のような存在に見えた。
そして奇跡のような声で、言った。
『十三夜月姉さま(じゅうさんやづきねぇさま)。』
「彼女が三日月ですの?」
「なんだか、ただの人間のよう。」
・・・ただの人間?
何?何を言ってるのか、さっぱり分からない。なんだ・・?この侮蔑の瞳は。
「小望月(こもちづき)、十六夜(いざよい)。」
十三夜月が後ろも振り返らずに言う。
「彼女は尊き三日月なのよ。それに、何も知らない赤ん坊。」
そう言って彼女は口に手をあて、くすくす笑った。自分のセリフを名調子とでも言わんばかりに。
「本当に・・・何も知らない。」
声音を変えて・・そう、少し怒りすら混じった声音で。十三夜月が言うとそれを合図に後ろの二人があたしに飛びかかった!
「・・っ!」
桃色の少女の拳打を左手でうけ、水色の少女の腹を右足で蹴り飛ばす。
「小望月!」
十三夜月が声を上げた。
ザッと音を立てて、水色の少女が十三夜月のすぐ横へと着地する。
彼女が小望月なのだろう。
拳打をうけた桃色の少女(彼女が十六夜だろう)を重心を後ろにやって流し、改めて対峙する。彼女らは同じ服を着ていた。だが、髪飾りだけが違う。
小望月は黒いコウモリ羽。十六夜は白い鳥の翼を髪の両サイドに着けていた。
そしてその髪飾りを着けた髪もまた違った。
長い腰までのまっすぐな水色の髪と同じくまっすぐな肩までの桃色の髪。
「小望月」
「十六夜」
お互いの名前を呼び合うと同時に地を蹴った。
右と左から風を切る音をさせて二人の拳が飛んでくる。
ごッ
小望月の拳はとても直進的で・・・フェイントだ。 が、受けれなけば当たる!このスピードなら当たればかなりのダメージになる。
ヒュンッ
反らした体の上を拳が突き抜ける。かわしたが・・どうくる!? と思った瞬間、小望月が足払いをかけてくる。体制を崩された! 地面に手を付いてしまったその時、走ってきた十六夜の拳が迫る。
顔面を狙ったその拳を顔をそらしてよける。さらに迫った十六夜の蹴りを避けながら、 ジャンプして二人から距離を取る。
なかかなかどーして・・・
「けっこう、できるじゃないの。驚いたわ。」
そういって背中の「葛ノ葉」を抜き、構える。
右手に刀を携え、
左手の握った拳に、
胸元を飾る大きな赤い石のクモのブローチは軽い爆薬。
パニエの下には刃物さえ隠し持って。
それは・・・完全な武装少女。
「来なさい。・・・遊んであげるわ。」
小望月と十六夜の表情がすこし強ばる。
顔に浮かんだ一瞬の笑みも消し、あたしは少女たちに向かって奔りこんだ。
すぐに身構え、向かってくる小望月と十六夜。しかし、二人の手には何も握られてはいない。二人は拳をきつく握っている。
小望月が跳んだ。そのままの勢いで蹴りを放ってくる。その蹴りを脇へと流し、小望月に足元からすくうように剣を振り上げた。
行く筋か散る水色の髪。体制を立て直し、後ろに下がる小望月。 そこに、十六夜が突っ込んできた。
桃色の髪をなびかせ、回し蹴りを放つ。その蹴りをターンを決めてよけると、次は左の拳があたしの顔面を狙ってきた。体を沈ませ、拳をよけ、頭の上を通った左腕のを掴み、関節を決める。十六夜は、間接を決められその場に両膝をついた。
「十六夜を離せ!!!」
2・3歩離れたところから小望月がスライディングの要領で決めたていた十六夜の左腕、をあたしから引き剥がす。二人は傍観を決めていた、十三夜月の近くに戻った。
「行きなさい。」
静かに言う十三夜月の言葉に二人は走り出した。
「・・・本気を出さなきゃ、・・・失礼ね。」
あたしはぐっと刀を握り、その場で跳躍した。
「天からの罪・・・償うがいいよ。」
「天罪(てんざい)。」
ばさぁっ・・・・・・
一瞬降る、血の雨。小望月、十六夜は服を血に染め、倒れ付した。
「・・・・・!!」
十三夜月が倒れた二人の元へと走りよった。
「・・・申し訳ありません・・十三夜月姉さま・・・・」
「も・・・申し訳・・・ありません。」
「いいのよ。」
そういって、二人の頭を撫でる十三夜月は嘘のように優しく微笑んでいた。
「いいの。いいこね。小望月、十六夜。すこし休んでいなさいな。」
すこしの沈黙を破り・・・
「・・・アナタはいつ死んだの?」
十三夜月の表情はこちらからは見えない。
「アナタは私が殺したはず・・あの焔の中でアナタは一度死んだはずなのに。」
振り返った十三夜月の瞳は今にも泣き出しそうだった・・・。
「どういうこと?あたしは・・・死んで・・なんか・・・・・」
なんだろう、頭の中で警告音がする。背中のやけどがチリチリと痛む。
「あぁ。覚えていなかったのだわね。」
「ここにはあたしの思い出を探しに来たの。ここは・・・何?」
十三夜月はくすくすと笑い出した。
「思い出?思い出をさがしにきたのぉ?ここに思い出なんてものは・・・ ないんじゃないのかしらぁ?」
「ない?」
ではなんだ?ここには来てからのこの感情は。
「ここにいたときのあなたは、人の形すらしていなかったのだもの。 ふふっ、小望月と十六夜の分のサービスよ。じゃあぁね三日月。また会いましょう。 赤い月の晩に。」
そういい残して、十三夜月は二人の月を従え、窓から飛び降りた。

あたしは・・・一体・・・・・


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