アーマーリングを左手に。



・・・今日もいつもと変わらぬココの朝。しかも雨。
ザアザアいってる空をあてがわれた自室のベッドの上でぼーっと見てるあたし。
・・・・・眠いっ!!!
「あー・・・朝の三時までゲームしてるんじゃなかった・・・。」
だって、ボス戦まであと少しだったんだもん!!部屋の隅にあるゲーム機とTVをちらりと見ると、あたしはまた雨の降る空を眺めた。
なんでだろう、普通に憂鬱になるのに少し・・・嬉しいのは。
ピロリロリン。ピロリロリン・・・
「ぅおっっっ!!!??」
思わず声を上げて驚いてしまった。静けさに水を差したのはマイパソコン。
どうやらメールが届いたらしい。なんとなく、静かにベッドから下りてパソコンに向かうとマウスに手を置き、クリックする。
パソコンの画面にはただ短い文章と添付の資料。
《但馬組に、制裁を。》
制裁・・・依頼主は警察か・・・同業者か・・・まぁ後者だろうケド。
ようはやりすぎは禁物。出る杭は打たれるというわけだ。
ざっと添付の資料に目を通すと、メールを閉じて、のろのろと着替え始める。
まぁ、なんだ。腹が減っては戦はできぬ。ってね。
今日のスタイルはシンプル(?)にピンクの二段スカートをふわふわさせて、セーラー襟の白いブラウスを着ている。ポイントは首から下げた天使の羽根のはえた黒いハートのネックレス。もちろん、重装備とまではいかないがそれなりの武装はしている。

今日も食堂はざわざわしている。いつもよりは静かだが・・・。
「片目。」
厨房にいる、片目に眼帯をした、そしてなぜだかパティシエ風のゴシックエプロンがよく似合う青年にあたしは声をかけた。
「よぉ、姫。おはよう・・・かこんにちはってところかな?」
フライパンを器用にかえしながら、あたしのほうに振り返る。
よくみれば、時計の針は十二時だ。・・・何時間寝てたんだ?あたし・・・。
「おいしそうね。なに?」
なんだか片目の持つフライパンからいいにおいがする。あたしがそう聞くと片目はなぜか軽く胸を張りつつ、
「卵チャーハン、魚肉ソーセージ入りだ。ちなみにまかないだぞ?」
これからご飯だったんだ・・・
「あたしにも頂戴。おいしそう。」
卵チャーハンが出てくるのを目で追いながら、ふと思ったことを口にしてみた。
「ねぇ?片目・・・ずっと気になってたんだけど、その腰に下げてるのなに?」
あたしの目線の先・・片目のゴシック風蜘蛛の巣模様のコック服のウエストに下がっている大工さんの用具入れのようなバッグ(?)。なんかの柄みたいのとかが見えるんですけど・・・
「これか?調理器具入れに決まってるだろ。」
そういって彼の腰からは出るわ出るわ。おたまにさいばし、泡だて器。包丁がキッチンナイフにフルーツナイフ、出刃包丁なんかまで。そして魚肉ソーセージ・魚肉ソーセージ。魚肉ソーセージ。
・・・・・・・・魚肉。

「・・・・・魚肉・・・なんだ・・?」
「これだけじゃないぞ?」
なにぃ!!???
んばっっっ!!!
片目が着ていたコック服の前を豪快に開く!お父さん方はけっしてまねはしないように。変態といわれても仕方がなくなるので・・・
それはともかく、そのコック服の内側にはびっっっしりとそう、ところせましと。
魚肉・・・・・!!!!!!
数秒間・・・あたしの脳は動くのをやめた。

カツンカツン・・ピチョン。なんだか未知なる洞窟にいる気分になるのはなぜだろう。
いつものようにドアをノックすると十夜はすぐに顔を出した。
「あら、サーティーン。なにか用?新兵器ならまだもう少しだけど?」
「そうじゃないの。特製睡眠弾、もらえる?今回はちょっと大きな仕事になりそうなの。」
「制裁かなにかかしら?」
う〜ん、分かってるなぁ〜
「・・・・・薬は?足りないなら作るわよ?」
「大丈夫。まだ残ってるか・・」
ぴひぎゅううぅぅぅ・・・
鳥か、はたまた獣なのか・・
たして2で割ったような、それでいて腹に響く声(?)
「あら?ちょっと待ってよ、今、サーティーンが来てるの。」
ぴひうぅぅ・・・・・
なんか言葉通じてる???!!

「但馬組事務所。」
暗闇に浮かぶその看板の文字を読み上げるとあたしはおもむろに拳を上げ、
コンコンコンッ・・・・・コンコンコンッ・・・・・・・・
返事は・・・あるはずがない。事務所の鉄の扉の前であたしは深呼吸をひとつ。
ドゴッォォォォォンン・・・
鉄でできていた扉はあっさりと内側へと倒れていった。
倒れたその扉には、くっきりとあたしの拳の跡が残っていたりする。
倒れた扉の先に一人の男。チンピラを絵に描いたような男だ。
「なっ、なんだこいつ!!?」
ごっ!
鈍い音を立てて、男の顔面にこぶしをめり込ませる。
「おいっ!どうした!!?」
階段から降りてきたチンピラ(その2)が拳銃を片手に降りてきた。
そしてその声を聞きながら、あたしはまっすぐ地下の電気室へと向かった。

今夜のドレスの色は漆黒。ワンピースで、首周りの襟と姫袖に二重の白いレース。、前ボタンでタッグがボタンを真ん中に左右対称に三本寄せてある。もちろん、たなびく裾にも白いレース。その少し上には黒いリボンの通ったはしごレースがあしらってある。
そして、ヒラヒラのレースの下には完全な武装。危険をスカートの下に隠し、姫袖から伸びる腕を暴力へと変えて、あたしは走る。
時々・・・思う。なぜ、自分はほぼすべての銃器類、刀剣類を扱えるのか・・・なぜ、 体術・武術までもがここまで体に染み付いているのか・・・そんなことを考えながら、横から飛び出してきた男のわき腹を左足を軸に蹴り飛ばす。こんなことぐらいなら、考え事をしながらでもできてしまうのだ・・、・あたしは。
「電気室・・・あそこか。」
廊下の突き当たり。灰色のドアを勢いのまま蹴り飛ばす。
「ブレーカー・・・ブレーカー・・・・・あった!」
ガコンッ!
「なんだ?」
「電気が消えたぞ!」
そんなありきたりなセリフが、動揺しきった声で聞こえてくる。 あたしが走り抜けてきた廊下から。
「ここかっっ!!」
一人の男が拳銃を構え、暗闇となった電気室に駆け込んでくる。 「みつかっちゃった。」
平然と言うと、あたしはスカートの下にすばやく手を伸ばし・・・
ガゥン・・・
「ただの麻酔弾よ。・・・十夜特製のね。」
銃弾とあつかいは一切変わらないスグレモノ。
倒れている男の上をまたいで電気室の外の暗闇に躍り出る。
「・・・暗闇でも、あたしは見える。」
一人つぶやくと倒れている男たちをしりめに廊下を抜け、階段を上へと駆け上った。

「見ろ!!」
「おい!制裁だ!!」
「金の瞳だっ!!」
「金の瞳の悪魔だ!!!」
暗い廊下に男たちの上ずった声があちこちから上がる。
ブレーカーを落とした暗闇の中、あたしの目が、ネコの目のように金色に光る。
そう、あたしの目は両目ともに金色なのだ。突然変異・・・と、まつり先生はいう。まだ母体の中にいた頃、目が形成される時期になにかあったのだろうと。普段はコンタクトをしているのだが仕事のとき、あたしはコンタクトをはずし、金の瞳で相手を射る。
ので、付いた名のひとつが今あいつらが言った「金の瞳の悪魔」ひねりも何もないが・・・昔から縁起の悪い色の眼ではある。古今東西どこかは忘れたが「悪魔の瞳の色は金色。」だという地域がかなりある。まぁ、そんないわれのある目でもあたしはこの金の瞳を気に入っている。
やつらが金の瞳を恐れるのは、ただ不吉なだけではなくやつらにとって破滅の瞳だからだ。
「金の瞳の悪魔」といえば制裁者としてそれなりに名が通っている。まぁ少々その手のやつらには有名人というわけだ・・・破壊の。

執務室の手前、広めのリビングルームのような場所。
飛び掛ってくる男が二人、一人は銃。一人はサバイバルナイフ。サバイバルナイフの男が切りかかってきたのを左手でナイフをはじき、右足であごを蹴り上げる。銃を構えた男が引き金を引いた瞬間に重心をずらし、その場でくるりとターンを決め、そのまま男の顔面に裏拳を入れる。
さらに三人。物陰からおのおの飛び出してくる。・・・狂ったように吼えながら。
駆けるのは止めず、背中の葛ノ葉を抜き、
一息で踏み込み、胴を薙ぐ。
一瞬の血飛沫。
男のうめき声。
・・・致命傷はさけてある。まぁ、しばらくは病院の住人と化すだろうが。
その先にあるドアが組長、但馬のいる執務室。
そのドアも・・・蹴り開けた。

周りではべっていた女たちは全員、寝ている。ガードをしていた男たちはうめき声を上げているか、気を失って床に転がっている。・・・まぁ、壁にめりこんでたりとかもするが。
一人残った成金趣味でごてごての男。但馬。
「そっ・・それ以上来るな!!近づくんじゃない!!うっ・・撃つ・・撃つぞ!!!」
おびえきった声でなけなしの脅しをするとその動きにくそうに肥えた体を動かし、スーツの裏ポケットからわたわたと銃を取り出し、構えようとする。
・・・そして、一陣の風。
「いいわよ・・?」
ぽとっ・・・
「引き金を引く指があれば・・・ね。」
自分の銃を持っている手を見下ろし、突然悲鳴を上げる。引き金を引こうとした右手の人差し指は、嵌めていた成金趣味の純金の指輪と共に、足元の床に転がっていた。

事務所の外に出てみると夜風がやたらと気持ちよくて。
・・・まるで硝煙も血の残り香も流してくれるようだった。
「あーぁ。つまらないわぁ・・・。」
あたしは夜空を振り仰ぐ。
「だって、殺しても殺しても手ごたえのないやつらばかり。」
「十三夜月・・・。」
振り仰いだ先、血に濡れた切っ先を地面へと向け、そのしたたりで地面に紅い水たまりを作っている少女。十三夜月(じゅうさんやづき)。
「お久しぶり、三日月。あなたに会えなくてさびしかったわぁ・・・。」
そう言いながら、彼女はタンクの上から飛び降りた。まるで月の中から浮き出たように。
「・・・ほんと、さびしかったのよ??三日月。返事くらいして頂戴。」
「・・・・・お久しぶりね、十三夜月。あいかわらずのようね・・・。」
その血のしたたるその切っ先を睨みながら、あたしはつぶやいた。どうやら、その目線に彼女も気づいたらしく、同じ切っ先をちらりと見ると、
「あぁ。さっき終えてきたところよ。・・・三十人ぐらいだったかしら・・・女もいたかしらね・・・。」
くすり・・・と妖艶に、そして無邪気に笑うと彼女は剣を構えた。それと同時にあたしも葛の葉に手をかける。
っぃんっっっ!!
二つの刃が月光にきらめく。そして、十三夜月はあたしのいた道の上に。あたしは十三夜月のいた、タンクの上にいた。
「あなたとじゃれている暇はないの。さっさとおうちにお帰りなさい。」
あたしは月の光を背に浴びて、朗々と言った。
「・・・そうね。あなたももう、おねむでしょうから・・・帰りなさい?」
彼女が言ったとたんあたしのワンピースの裾の一部が風にひらめいた。
その破片を風に見送った彼女があたしを見上げるのと、彼女のブラウスの襟が裂けるのは同時だった。


れっっっでぃぃぃすっっあ〜んんんどじぇんとるめん!!お待たせしました!「アーマーリングを左手に。」第二弾!!!(>_<)なんだか深刻な展開になった気がするよーな???そして!!明かされた片目さんの秘密(爆笑)このエピソードは某センパイからの雑談から生まれました(#^.^#)そしてこれからどーなる?どーする??自分!!!???(激汗)以上!姫カットにした作者でした(^_^)
戻る



アクセス解析 SEO/SEO対策